2025-08-26 コメント: 1件 ▼
従業員250人買収約束疑惑で幹部6人逮捕 自民比例候補と業界支援の歪みが露呈
パチンコ会社幹部6人逮捕 自民比例候補巡る買収約束疑惑
7月の参院選比例選をめぐり、自民党公認の阿部恭久氏への投票と引き換えに現金を渡すと従業員に約束した疑いで、パチンコ店運営会社「デルパラ」の社長・李昌範容疑者ら幹部6人が公職選挙法違反(買収の約束)の疑いで逮捕された。系列店の従業員250人以上を対象に報酬を支払う約束をしていたとみられ、平成以降の国政選挙で最大規模の摘発につながる見通しだ。
発表によれば、同社は7月初旬から中旬にかけて各店舗の店長らを通じ、従業員計60人に対し投票の依頼とともに現金3000~4000円の支払いを約束。営業本部長と管理本部長は全国の店長とのウェブ会議で、投票用紙に阿部氏の氏名を記入したうえでスマートフォンで撮影し本社へ送れば、残業代名目で報酬を出すと説明したとされる。ブロック長2人が各店の状況を取りまとめ、総務部長が経理面を担っていた疑いがある。
警視庁などの合同捜査本部は、李容疑者が取りまとめを指示したとみて経緯の解明を進める。情報提供で捜査が進み、従業員への現金支払いは実行に至らなかったという。有権者に金銭を渡す行為だけでなく、約束すること自体も違法と定める公職選挙法の射程を示す事案となった。
組織内候補と業界支援 深まる疑念
阿部氏は全国のパチンコ店が加盟する「全日本遊技事業協同組合連合会(全日遊連)」の理事長を長く務め、業界の組織内候補として出馬した経緯がある。業界の政治団体は支援の方針を示し、規制緩和や環境整備を求める声を背景に支援の輪を広げてきた。結果として阿部氏は8万8368票を得たものの、自民比例の名簿順位で届かず落選している。
候補者本人の関与は現時点で確認されていないが、業界と政治の距離感に対する社会の目は一段と厳しくなる。組織の利害を背負う「組織内候補」のあり方、そして選挙運動が現場でどう具体化されるのかという統治課題が改めて問われている。
一方で、従業員に投票内容の撮影を求めたとされる点は、投票の秘密を脅かす重大な懸念を生む。仮に撮影が行われれば、自由投票の前提が揺らぎ、労使関係の上下にある従業員が心理的圧力を受ける可能性は高い。企業組織を通じた票の取りまとめは、法令順守と民主主義の原則の双方を損なう危うさを孕む。
縮む市場と“政治頼み” パチンコ業界の現在地
パチンコ店数は1995年の1万8千超から、昨年末には約6706店まで減少した。利用者数も2014年の約1150万人から2023年には約660万人へとほぼ半減。依存症対策に伴う出玉規制、高齢化、娯楽の多様化、新型コロナ後の回復遅れなどが重なり、業界は構造的な逆風に直面している。
苦境下で、業界団体は規制の見直しや経営環境の改善を求めて政治への働きかけを強めてきた。だが、票とカネが結び付く不透明な手法は、かえって社会的信頼を損ない、政策議論の土台を脆くする。今回の逮捕が示すのは、短期的な“政治頼み”が長期的な信認を失わせるという皮肉な現実である。
ネット上でも批判が噴出した。
「従業員250人規模の買収約束は前代未聞だ」
「投票用紙の撮影を求めるなんて、民主主義の根本を壊す行為だ」
「業界と政治の距離が近すぎる。説明責任は避けられない」
「こういうことをすれば規制はむしろ強化されるだけ」
「候補者本人の関与がなくても、組織内候補の在り方は見直すべきだ」
選挙の公正性と企業コンプライアンス 再発防止への処方箋
今回の事案は二つの教訓を突き付ける。第一に、選挙の公正性を守る法制度の実効性を高める必要がある。買収の未遂や約束段階を的確に摘発しうる運用を徹底し、企業ぐるみの不正を抑止する。第二に、企業コンプライアンスの強化である。政治活動と業務の線引き、従業員への教育、内部通報制度の機能化など、実務的な歯止めを整えなければならない。
また、組織内候補の支援体制には、資金と動員の流れを見える化する透明性が不可欠だ。政治資金の出所、広報・動員の手続き、関係者の利害の開示を徹底し、疑念の余地を狭める。石破茂内閣の下で進む政治改革の議論においても、業界団体と政治の関係をどう規律するかは避けて通れない論点になる。
有権者が政治を信頼できるかどうかは、一票の価値が守られていると実感できるかにかかっている。票と引き換えに金銭を約束する行為は、その信頼を根底から傷つける。業界の再生も、政治の信頼回復も、透明性とルール遵守を積み上げる以外に近道はない。
加えて、同社は2007年設立で、東京、鳥取、鹿児島など8都県で計31店舗を展開、従業員はグループ全体で約540人に上る。捜査当局は約束に応じた側も被買収に当たるとして従業員の立件を検討しており、摘発人数は平成以降の国政選挙で最大規模に達する見通しだ。票の取りまとめに企業組織が関与した場合のリスクは、経営や雇用にも波及しうる。