2025-11-30 コメント投稿する ▼
介護現場の死亡事故を国が見える化 2027年度から全国統一DB導入へ
政府(厚生労働省)は、2027年度から、全国すべての介護施設や事業所で起きた死傷事故について、内容と件数を報告・集約する新しいデータベース(仮称「事故情報統計DB」)を導入することを決めた。 特に、「こういう状況でこういう事故が多い」という実例を共有することで、事故の再発を防ぎ、介護現場の安全性向上につなげたい考えだ。 これまでにも、大きな事故が起きていた。
狙いは「見えなかった事故」を見える化
政府(厚生労働省)は、2027年度から、全国すべての介護施設や事業所で起きた死傷事故について、内容と件数を報告・集約する新しいデータベース(仮称「事故情報統計DB」)を導入することを決めた。これにより、これまで自治体任せでバラバラだった事故情報を国が一元管理し、分析。その結果を匿名化統計や事例集として自治体や介護事業者に提供し、重大事故の再発防止につなげる。事故防止の取り組みに全国的な“共通の土台”を敷く狙いだ。
報告対象は、歩行中の転倒、ベッドからの転落、食事中の誤嚥(ごえん)など一般的な事故から、死亡や入院に至る重大事故まで。発生場所(居室、浴室など)や利用者の要介護度、認知症の有無などの属性情報も登録を想定しており、より詳細な分析が可能となる。
厚労省はこのDBを活用し、事故の傾向や要因ごとの分析を行い、結果を自治体や施設に伝えることで、適切な対策やスタッフ研修を促す。特に、「こういう状況でこういう事故が多い」という実例を共有することで、事故の再発を防ぎ、介護現場の安全性向上につなげたい考えだ。
背景――現在の“見えにくさ”が制度化の壁に
全国には約25 万か所の介護施設や事業所がある。制度上、事業者は事故が起きた場合に市区町村へ報告する義務がある。にもかかわらず、実態把握は十分ではなかった。実際、ある自治体の調査で、市区町村の約 3 割は報告の集計・分析を行っておらず、国への報告も任意だったため、全国規模の事故の実態は不明だった。
こうした状況が、事故防止における大きな足かせとなっていた。どのような事故がどのように起きているか、全国で共通認識がなければ、効果的な再発防止策を講じることは難しい。
このため、制度としての統一化、国主導の集中管理が求められていた。今回のデータベース導入は、その要求に応えるものといえる。
事故の規模――「見えなかった」大きな損失
これまでにも、大きな事故が起きていた。たとえば、複数の自治体を対象に実施されたアンケートでは、2021年度だけで106 市区において、介護施設の事故で 合計1,159 人が死亡 していたことが確認されている。特に、食事介助中の誤嚥が最多で 679 人(死者の約 59%)、転倒・転落が159 人(約 14%)だった。
しかし、そのうち市区町村が死亡事故を市民に公表していたのはわずか約2割にすぎなかった。約6割の自治体は報告を受けながらも公表せず、再発防止策に取り組んでいないか、あるいは情報共有をしていなかった。
このような状況では、同じような事故が別の施設で再び起きる可能性が高い。国が全国レベルで事故の傾向と内容を把握できなければ、介護の安全性は向上しづらい。
制度化の効果と残る課題
今回のデータベース制度化は、介護現場での事故の透明性向上に向けた大きな前進となる可能性がある。匿名化された統計情報と事例集の提供によって、自治体や施設は“何をどう改善すればいいか”の判断材料が得られる。
ただし、その効果が十分に発揮されるには、報告の徹底、データ登録の実効性、そして分析結果を現場に反映する仕組みづくりが不可欠だ。とりわけ、介護職員の多忙さや人手不足という構造的な課題が、そもそもの事故発生の根源となる。制度だけ整えても、現場の負荷が軽くならなければ、本質的な改善にはつながらないだろう。
一方で、過去にも国や研究機関で事故防止に関する調査や研究が行われてきた。たとえば、労働災害統計では、社会福祉施設での死傷者数が近年増加傾向にあることが報告されており、その中で「転倒」が全体の3割以上を占めている。社会福祉施設で働く人々、また施設を利用する高齢者――双方の安全を守る観点で、今回の制度化は重要な一手といえる。
今後に向けた視点
国が事故データを集約・公開するようになれば、地域差や施設種別による事故の偏り、誤嚥や転倒が起きやすい状況などが見えてくる可能性が高い。そうした分析を基に、介護人材の配置見直し、施設の構造改善、職員教育の強化などが議論されるだろう。
ただし、制度だけに頼っても限界がある。事故の根底にあるのは“人手不足”という構造的問題だ。介護の質と安全性を高めるために、国・自治体は財政支援や報酬の引き上げなどを含めた総合的な支援を検討すべきだ。
このデータベースは、言うなら「事故の黒箱を開ける鍵」。真に高齢者と介護現場を守るなら、その鍵を使って、制度と現場両方の改善を進める必要がある。