2025-11-18 コメント投稿する ▼
厚労省が金銭解雇制度を検討再始動 雇用破壊の暴走懸念
労政審、金銭解決制度を議論入り。 厚生労働省は2025年11月18日、労働政策審議会(厚生労働大臣の諮問機関)・労働条件分科会で、「解雇の金銭解決制度(以下、金銭解決制度)」の導入を視野に、有識者による検討会を設置する方針を確認しました。 これは、違法な解雇でも、使用者が一定の金銭を支払えば労働契約を終わらせられる仕組みで、不当解雇を実質的に合法化する懸念があります。
有識者検討会設置で唐突な「金銭解雇」議論再燃 労働者軽視の雇用破壊が加速
労政審、金銭解決制度を議論入り
厚生労働省は2025年11月18日、労働政策審議会(厚生労働大臣の諮問機関)・労働条件分科会で、「解雇の金銭解決制度(以下、金銭解決制度)」の導入を視野に、有識者による検討会を設置する方針を確認しました。これは、違法な解雇でも、使用者が一定の金銭を支払えば労働契約を終わらせられる仕組みで、不当解雇を実質的に合法化する懸念があります。批判の声が労働界から強まっています。
金銭解決制度とは何か
金銭解決制度とは、本来無効とされる解雇に対し、職場復帰ではなく金銭を支払って解決する選択肢を認める制度です。厚労省は、2022年12月の分科会でおこなった「解雇等経験者への調査」や「諸外国の制度調査」の結果を示し、解雇経験がある労働者の15.9%が金銭救済を選択肢と考えていたと説明しました。
また、有識者会議では、法学や経済学の専門家を交えて議論を深める方針が示され、山川隆一分科会長(明治大学教授)は「制度設計には慎重な議論が必要」と述べました。
懸念の声が強まる:労働側の反発
労働者側の委員からは、金銭解決制度導入への強い拒否感が出ています。彼らは「不当解雇を正当化する制度になりかねない」「使用者が安易に解雇を選べる口実を与えてしまう」と主張。裁判や労働審判による地位確認権を軽視させ、解雇を促進する懸念があります。
特に、示談による“解決金8割”など、使用者側が金銭をちらつかせて示談を迫る構図が指摘され、これが結果的にリストラや退職勧奨を増やす構造を生むのでは、との危惧があります。
制度設計の難しさ、過去検討の経緯
金銭解決制度は、実は10年以上前から議論されてきたテーマです。2003年の労政審から話が持ち上がり、2005年には研究会が報告書をまとめました。
その後、2018年には「解雇無効時の金銭救済制度に関する法技術的検討会」が設置され、2022年に報告書が取りまとめられました。
しかし、金銭の水準や運用方法に関して濫用の懸念が根強く、労働界からの反発もあって、制度化には慎重論が強かった歴史があります。
問題点:働く人へのリスクが甚大
今回浮上している制度案には、以下の深刻な問題があります。
1. 解雇促進のリスク
使用者が「金銭さえ払えばいい」という認識になれば、解雇が安易になる可能性があります。元々違法・不当とされる解雇でも金銭で解消できてしまえば、解雇規制の意味が大きく損なわれます。
2. 労働者の選択圧
裁判を起こす時間やコストを考えれば、「金銭でさっさと解決したほうがいい」と示談に応じざるを得ない労働者が出てくるおそれがあります。示談の条件が不利でも拒否しづらい構図が生まれるかもしれません。
3. 最低支払い額の基準設計の難しさ
支払われる「労働契約解消金」の水準をどう定めるかは大きな論点です。低すぎれば労働者の救済にならず、高すぎれば使用者にとって負担が重く、逆に制度が広がりにくくなります。学者や有識者も慎重な議論の必要を指摘しています。
4. 既存制度との整合性
労働審判や民事訴訟など、すでに存在する紛争解決制度との関係をどう整理するかも課題です。金銭解決が「簡易で迅速な手段」と位置づけられるなら、既存制度が空洞化する恐れもあります。
雇用破壊・改革の加速か
今回の検討会設置は、高市早苗政権下で進む「労働規制緩和」の流れの一環とも見られています。労働時間規制の緩和や、雇用の流動性を高める政策と合わせて、解雇をしやすくする制度が導入されれば、企業側のコストが下がる一方で、労働者の雇用は不安定化する可能性があります。
また、制度を導入すれば企業献金など経営者団体からの圧力が強まり、政治が企業側に有利な制度を正当化する構図を生むかもしれないとの懸念も根強いです。
今後の見通しと市民の役割
厚労省の検討会は今後、専門家による議論を本格化させます。制度設計の段階で、労働者側の声をどこまで反映できるかが重要です。国民やメディア、市民運動は、透明性ある議論を求め続ける必要があります。
労働者保護は根幹の人権問題です。金銭解決制度の導入は、一部「選択肢」として機能する可能性がありますが、それが「解雇を安く合法にする穴」にならないよう、強い監視が欠かせません。