2025-11-26 コメント投稿する ▼
日本の米価高騰の根本原因は流通構造と減反政策 “備蓄米放出”では焼け石に水
実際、備蓄米放出などによる一時的な供給増で卸・相対取引価格はわずかに下落したものの、消費者が買う店頭価格は下がらず、高値が続いています。 さらに、流通構造の変化が問題を深刻化させています。 さらに、備蓄米放出によって需要が一時的に充足しても、根本的な「なぜ供給が減ってきたか」の構造は変わりません。
備蓄米放出が及ぼした効果
2025年11月26日、鈴木憲和農林水産大臣はテレビ番組で、前任の小泉進次郎氏のときに行われた備蓄米の放出について、「あの当時は足りなかったので放出した。ただ価格をコントロールするのは難しい」と述べ、放出の成果については慎重な評価にとどめました。番組では「備蓄米放出は失敗だったと思うか」との率直な質問もありましたが、鈴木氏は「間違いというほどではない。当時はそう判断したのだろう」という言葉にとどめました。
実際、備蓄米放出などによる一時的な供給増で卸・相対取引価格はわずかに下落したものの、消費者が買う店頭価格は下がらず、高値が続いています。専門家もこの背景に流通構造の変化を指摘しています。
構造的問題――流通経路と減反の弊害
日本の米価高騰の根底には、長年にわたる政策とその後の農政変更、そして流通の歪みがあります。1970年から実施されてきた減反政策は、水田の作付け面積と米の生産量を抑えることで供給過剰を防ぎ、価格を高水準で維持するものでした。
2018年に形式上この減反政策は廃止されましたが、実態としては「適正生産量」の提示や転作支援の制度が残されており、米の供給量は大きく回復していません。これが近年の慢性的な供給不足と価格不安定の要因となっています。
さらに、流通構造の変化が問題を深刻化させています。かつては政府やJA(農協)を通じた集荷・流通が一般的でしたが、近年は集荷業者を経由しない流通ルートが拡大し、こうした「新たな流通経路」が全体の過半を占めるまでになっています。これにより、政府が備蓄米を放出しても、必ずしも店頭価格に反映されず、価格抑制の効果が薄れてしまうという報告があります。
つまり、供給面だけでなく「だれがどう流通させ、どう販売するか」という流通の構造そのものに問題があるわけです。
なぜ備蓄米の放出だけでは不十分なのか
たとえ備蓄米を大量に市場に流しても、高い店頭価格を維持する仕組みが残っていれば消費者には届きません。実際、今年春に備蓄米の売り渡し方法を入札方式から随意契約に切り替えて流通を加速させたものの、価格は下がらず、多くの店では依然として高値が続いています。
また、備蓄米を放出した量は市場全体の必要量から見れば限られています。政府備蓄が仮に100万トンとしても、それは国内年間消費量のごく一部に過ぎず、放出量だけで需給バランスを根本から改善するには無理があるという見方もあります。
さらに、備蓄米放出によって需要が一時的に充足しても、根本的な「なぜ供給が減ってきたか」の構造は変わりません。生産者数の減少、高齢化、後継者不足、資材コストの高騰などは引き続き供給力を圧迫しています。
当該問題をどう根本解消すべきか
現在の状況を見ると、備蓄米放出などの一時しのぎでは不十分です。根本的な解決には以下のような改革が必要です。
一つは、米の生産調整や価格維持を目的とした過去の政策(減反など)を見直し、生産力の拡充を図ることです。収量の多い品種の導入や機械化で効率を上げ、生産性を向上させるべきです。
もう一つは、流通・販売における透明化と多様化です。特定の業者や経路に依存しないようにし、政府備蓄だけでなく、民間流通や輸入米も含めて供給の安定を図るべきです。
また、消費者負担を軽減する施策として、たとえば一律の補助ではなく、生活困窮者向けの支援や、必要な分だけを手に入れやすくする制度の検討も必要です。
現在のような「減反で供給抑制→高価格維持→備蓄放出で一時しのぎ」という悪循環を断ち切らずに続けることは、「価格を安定させるため」と言いながら、実際には消費者にも生産者にも不利益を強いる構造を温存するに過ぎません。
結論――備蓄米放出は“応急処置”、根治には遠い
備蓄米放出は消費者の家計を一時的に助ける「応急処置」にはなりましたが、それだけでは根本的な米価高騰や供給不足を解消することはできません。むしろ、流通構造のゆがみや、長年の減反政策による生産力の低迷といった、構造的な問題を直視し、改革することが不可欠です。
もし政府が本気で「国民の食と暮らし」を守るつもりなら、単なる価格抑制ではなく、制度そのものを見直すべきです。
備蓄米放出は一過性の手段。真に必要なのは、供給力と流通の透明性を高める政策転換です。