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『環境と成長が調和する定常社会へ』
かつて「失われた十年」といわれ、いまや「失われた三十年」になりつつある。新自由主義的な経済成長至上主義では経済は成長しなかった。低成長、実質賃金の低下、財政悪化、人口減少、気候変動などの見たくない現実から目を逸らし、従来型の経済成長戦略を続けるのは限界である。発想を変える時期だ。経済成長は手段であって目的ではない。経済成長だけでなく、自由な社会かどうか、暮らしやすい街づくりはなされているか、環境や生物多様性は保全されているかといった点も重要である。成熟した経済、人口減少が続く社会では、急速な経済成長は期待できない。経済には好不況の波があり、恒常的に成長するものでもない。「成長と分配の好循環」では成長しないと分配もできないことになる。格差の拡大を防ぐため、経済が成長しようとしまいと、分配を重視すべきである。
これからの経済政策の目的は、貧困と格差の解消、脱炭素化、そして、すべての人が潜在能力を発揮できる社会をつくることであるべきだ。従来の減税と公共事業を中心とする「投資先行型経済」から、セーフティーネットを充実させて将来の安心を保障し消費を活性化する「保障先行型経済」へシフトすべきである。
いまや「経済か環境か」という二者択一の発想は意味がない。人類の生存がかかった状況では、環境より経済を優先する贅沢はゆるされない。環境を守れないと経済は成長しない。脱炭素化が経済成長と利益につながる市場システムを創り出す。非倫理的なことは非経済的な時代になりつつある。「市場の失敗」を超えて倫理的な経済システムを築かなくてはならない。市場メカニズムを調和と共生を重視する方向へ軌道修正する。経済成長至上主義でも脱成長でもなく、環境と経済を両立する脱炭素経済へシフトする。脱炭素化を、DX、サービス化(製造業のサービス産業化)、知識経済化と同時並行で進め、自然エネルギーの普及や省エネ、教育、科学技術への公的投資を拡充する。
持続可能な経済システムのまん中には人がいる。非正規雇用の増加や実質賃金の低下が消費低迷の元凶であり、雇用の質の改善や賃上げが景気回復につながる。非正規雇用の割合の高い女性と若者の労働条件の改善は急務である。同一価値労働同一賃金を徹底し、最低賃金引き上げにより若い世代の雇用条件を改善する。非正規雇用ほど未婚率が高く、少子化の一因になっており、若い世代の雇用の改善は効果的な少子化対策となる。雇用の正規化、ワーク・ライフ・バランスの改善、男女差別解消に取り組む。女性差別の撤廃は労働参加率と生産性改善に役立つ。多様な働き方を可能にする制度を整え、すべての人が能力を発揮して人間らしく働ける環境をつくる。
気候危機に対応する定常社会では、物質的な豊かさだけではなく、心の豊かさを重視する経済へとシフトするだろう。人生を豊かにしてくれる文化や芸術は、雇用創出や産業的な側面からも重要であり、人材育成や税制優遇などで支援すべきである。
日本が気候危機、感染症、海洋汚染などのグローバルな課題解決に貢献することは、日本の国益でもあり、持続可能な世界をつくる上でも重要である。発展途上国の脱炭素化を支援し、気候変動にともなう自然災害の激甚化に備える防災・減災の国際協力を拡大する。地球規模の感染症対策などの医療支援を強化し、地球全体の健全性を保つ「プラネタリーヘルス」を推進し、日本と世界の共通の利益を増進する。
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