2025-10-16 コメント投稿する ▼
熊谷俊人知事の千葉県、選択的夫婦別姓講演会を開催
千葉県・熊谷俊人知事のもと、県は11月30日に「選択的夫婦別姓制度について学ぼう」という講演会を開催することを発表しました。 この講演会を巡っては、地方自治体が夫婦別姓制度の議論を行うこと自体を「越権行為」とする批判もあります。 熊谷俊人知事は過去、公の場で選択的夫婦別姓制度に賛成の立場を示したことがあります。
千葉県が“学びの場”設置 選択的夫婦別姓を巡る論点
千葉県・熊谷俊人知事のもと、県は11月30日に「選択的夫婦別姓制度について学ぼう」という講演会を開催することを発表しました。対象は県内在住・在勤・在学の方で、会場25名、オンライン50名の定員制です。講師は慶應義塾大学文学部准教授の阪井裕一郎氏です。
この阪井氏は、選択的夫婦別姓の実現を目指す民間団体「あすには」と共同で、事実婚や姓名をめぐる意識調査を実施してきた研究者でもあります。つまり、この講演会は一定の立場を共有する人物を招いて制度の“学び”を促す形とみられます。
主催側は、「日本では結婚の際に法律上は夫婦同姓となりますが、外国では多くの国で夫婦別姓が認められています。誰もがどちらでも選べる選択的夫婦別姓制度についてわかりやすく解説します」としており、制度理解を深めたい県民に門戸を開く意図があるようです。
なお、県の2025年度予算案では、男女共同参画・多様性推進を掲げる複数の事業に予算が割り当てられています。今回の講演会は「千葉県男女共同参画東葛飾地域推進員事業(多様性社会推進課)」の一環とされています。
制度導入は“越権”か、それとも地方の役割か
この講演会を巡っては、地方自治体が夫婦別姓制度の議論を行うこと自体を「越権行為」とする批判もあります。制度設計そのものは国会・国法が扱うべき領域という見方が根強いのです。実際、他県知事の中には「姓の制度は国が検討すべき」と発言する例もあります。
とはいえ、地方自治体が「学び」や「議論促進」を目的に制度説明を行うことは、法的に禁止されているわけではありません。ただし、主導する内容や講師の立場、公費の使い方によっては、公正中立性を問われる余地が生じます。制度推進派と慎重派の意見をバランスよく紹介するかどうかが、公平性の鍵となるでしょう。
「県民の理解を深めることと、政策誘導は別問題」
「講師の立場が偏っていないか検証が必要」
「多様性という名のもとで一方的な価値観を押しつけていないか」
「まずは制度のメリット・デメリットを同じ比重で説明してほしい」
こうしたSNS上の意見も見られ、県の対応には注視の声が集まっています。
熊谷知事が示す姿勢と地域世論
熊谷俊人知事は過去、公の場で選択的夫婦別姓制度に賛成の立場を示したことがあります。「国民の意見は分かれている。だからこその“選択的”だ」と語り、意見が割れる問題だからこそ制度として“選べる”余地をつくるべきだと述べてきました。
ただし、熊谷知事自身が「地方自治体は国の制度設計に従うべき」との立場を明確にしたわけではありません。今回の講演会は、知事が制度論議を県政課題の一つとして扱う意思表明と見ることもできます。
千葉県の直近の意識調査では、「選択的夫婦別姓を導入すべき」と答えた人が36.9%、「同姓制度を維持すべき」が12.9%、「同姓維持+旧姓通称制度を整備すべき」が37.3%という結果でした。年代別では50歳以上の回答が多く、世代間の温度差が大きいことも浮き彫りになっています。
問われる公平性と公費使用の是非
まず、講演会ひとつで制度導入の流れを変える力は限られています。政治制度の変更には国会審議と法改正が不可欠だからです。今回の講演は、県民の理解を広げる契機になる一方で、立場が偏れば「制度推進の誘導」と批判されかねません。
さらに、公費支出と講師選びの公平性も論点です。制度実現を志す団体と共同調査を行った人物を講師に起用したことは、推進派の立場が強く出るリスクを伴います。県として中立的立場を保てるかが、信頼性の分岐点になるでしょう。
また、県議会の一部では過去に「選択的夫婦別姓導入を国へ求める意見書」案が提出されましたが、否決された経緯があります。これは県内でも意見が割れている現実を示すものです。
最後に重要なのは、制度推進か反対かという二項対立ではなく、議論の質そのものです。地方が行う“学びの場”は、どちらの立場にも偏らずに考える機会であるべきです。今回の千葉県の試みが、国民的議論の成熟につながるのか、それとも行政の越権と受け止められるのか。その結果が今後の地方行政の在り方を左右するでしょう。