2025-11-29 コメント投稿する ▼
南鳥島の超高濃度レアアース泥が示す日本の資源安全保障
青山氏は南鳥島近海の海底で確認されているレアアース泥について、「中国の陸上産レアアースの純度の約20倍」というデータを引用し、自立した資源確保の重要性を強調しました。 実際、南鳥島周辺の海底で確認された「レアアース泥」は、これまで想定されていたよりはるかに高い濃度を持つと報告されています。
青山氏が「日本は隠れた資源大国」強調
自民所属の参議院議員である青山繁晴氏は11月29日、客員教授を務める近畿大学(大阪府東大阪市)で行った講演において、海底に眠る資源としてのレアアース(希土類)の重要性を訴え、「日本は隠れた資源大国だ」と強く主張しました。特に、南鳥島近海の海底で確認されているレアアース泥について、「中国の陸上産レアアースの純度の約20倍」というデータを引用し、自立した資源確保の重要性を強調しました。
この発言は、世界の約7割を占めるとされる中国のレアアース供給に依存してきたこれまでの構造を見直すべきだ、との警鐘と受け止められます。青山氏はさらに、資源と国際情勢、安全保障の文脈を結びつけ、アジアにおける民主主義のリーダーとしての日本の役割を訴えました。
南鳥島の「超高濃度」レアアース泥とは
実際、南鳥島周辺の海底で確認された「レアアース泥」は、これまで想定されていたよりはるかに高い濃度を持つと報告されています。東京大学の研究グループなどが2013年からの調査で、南鳥島の排他的経済水域(EEZ)内に広く分布する深海堆積物からサンプルを採取。2014〜2015年に行われた詳細掘削では、複数の試料から分析が行われ、これまでに得られたデータをもとに、海底に「超高濃度レアアース泥」が存在することが明らかになりました。
この泥は、軽いレアアースだけでなく、重希土類やスカンジウムを豊富に含み、特に磁石材料・電動モーター・ハイブリッド/電気自動車などに不可欠な元素を含んでいます。加えて、トリウムやウランなど放射性元素をほとんど含まず、「比較的クリーン」な資源であることも報告されています。
研究によれば、もし南鳥島周辺の有望海域だけで開発が実現すれば、日本国内での年間レアアース需要を数十年から数百年にわたって支えるだけの資源量が眠っている可能性もあるとされています。
海底資源開発の進展と政治的背景
こうした発見を受け、国内では産官学による海底資源開発の取り組みが進んでいます。特に、海底にあるレアアース泥だけでなく、マンガンノジュール(コバルトやニッケルなど、電池用金属を含む海底鉱物資源)についても南鳥島周辺で分布確認が進んでおり、資源の多角化が期待されています。
国際情勢の変化も、こうした動きを後押ししています。過去に中国が他国向けレアアース輸出を制限した「レアアース・ショック」は、世界各国にとって深刻な警告となりました。現在、重要鉱物のサプライチェーンの強靭化は安全保障の観点からも重要視されており、日本でも関連資源の国産化に対する関心が再燃しています。
さらに、最近になって政府間で資源の安定供給を支える枠組みが検討され、海底資源の開発・加工・供給を視野に入れた国際協力の可能性も浮上しています。特に、米国との協調によるレアアースの共同開発などが議論対象となっており、南鳥島を拠点とした将来的な供給網構築への期待が高まっています。
懸念と慎重論――実用化へのハードル
ただし、南鳥島の海底資源開発には依然として多くの課題があります。まず、深海からの採取と加工にかかる技術的・経済的コストは高く、商業化には相応の投資と時間が必要です。複数の航海や採泥のための設備、選鉱・製錬技術の確立など、実用化までには越えるべきハードルが数多くあります。
また、海底資源開発は環境への影響にも慎重を要します。深海生態系への影響、採掘による海底の攪乱、資源採取後の廃泥処理など、安全かつ持続可能な方法での開発が前提となります。さらに、国家間の利害調整や法制度整備も不可欠です。
一部には、過大な期待に対する「戻りたい現実」の警鐘もあります。海底資源の「夢」は確かに魅力的ですが、それを現実の供給網に組み込み、安定した国内資源として機能させるには、きわめて多くの準備と慎重な手続きが必要です。
資源安全保障と日本の役割を改めて問う
青山氏が講演の中で主張したように、南鳥島という日本の最東端に位置する遠隔の海域に、世界最高レベルの資源ポテンシャルが眠っている可能性は、確かに日本の資源安全保障を根本から揺さぶる発見です。
ただし、現状は「可能性」段階にすぎません。関係省庁、研究機関、企業などが連携し、技術・法整備・環境対策のすべてをクリアしたうえで、ようやく「安定供給の選択肢」として成立する道が見えてくるでしょう。
中国への依存を脱し、資源の主権と安定を守る――。その選択肢として、南鳥島の海底資源が現実味を帯びてきているのは間違いありません。しかし、それは「夢の泥」ではなく、責任ある開発と社会の理解のもとで実現されるべきプロジェクトです。
日本が目をそらしてきた海底にこそ、次世代を支える資源が眠っている。国内の技術と政治の覚悟が問われていると感じた人は少なくないだろう。